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「嶺歌さん、今晩は。お嬢様からお話があるとお伺いしました。何なりとお申し付けください」
形南がステップを踏みながら嶺歌に手を振ると「すぐに連れてきますの。お待ちになってね」という言葉を残してこちらに深いお辞儀をするエリンナと共に自宅の中へと消えていった。
嶺歌は言われた通りそのまま高円寺院家のただっ広い庭で待つ事になったのだが、しかし数分としない内に自宅の大きな仰々しい扉が開かれると中から兜悟朗が姿を現したのだ。
嶺歌はまさか本当にこの日に会えるとは思いもよらず今日一番のときめきを感じ始める。自分が今、思い焦がれているこの目の前の男性はとても眩しくて、優しくて紳士で……とてつもない程に格好良い。
「あ、りがとうございます。えっとそのですね」
嶺歌は自身の心臓が早く波打つのを体感しながらも心中で必死に緊張を沈ませようと躍起になっていた。
しかし兜悟朗に変に思われたくもないため、沈黙にならぬよう並行して言葉を続ける。
「あの、兜悟朗さんの苗字は何て言うんですか?」
嶺歌は直球勝負で問い掛けた。変に周りくどく聞くのは嶺歌の性に合わない。
質問の際の声が震えていなかった事に安堵しながら兜悟朗の方を見ると兜悟朗は柔らかな笑みをこちらに溢しながら、嬉しそうに口元を開かせる。
「僕は、宇島兜悟朗と申します」
(宇島……兜悟朗さん)
心の中で彼のフルネームを復唱した。
これまで兜悟朗という名前しか知らなかった嶺歌は、ここで初めて宇島兜悟朗というフルネームを知れた事でまた新たに彼に近付けているような、そんな気がしていた。
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