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「本来であればお初にお目にかかった際に名乗るべきで御座いました。大変申し訳御座いません」
すると兜悟朗はそんな言葉を口にして律儀に謝罪をしてくる。謝って欲しいわけではない嶺歌は大きく両手を振ってすぐ彼に声を上げた。
「いやタイミングというのがありますし、気にしないで下さい! 教えてくださってありがとうございます」
(宇島兜悟朗さん)
そう言葉を返しながらも嶺歌は再び彼のフルネームを心の中で呼んでみた。
目の前にいる兜悟朗の顔とフルネームが一致して、不思議な事にとてつもない幸福感に駆られている自分がいる。
嶺歌は嬉しさで心が満たされていくのを実感しながら「苗字を聞いて、しっくりきました」と言葉を付け加えてみた。
すると兜悟朗は再び柔らかげな笑みをこちらに向けてこんな言葉を返してきた。
「嶺歌さんに関心を示していただけました事、嬉しく思います」
「……っ」
いや、この発言は些か反則ではないだろうか。
このような台詞を聞いて仕舞えば、嶺歌の心臓はさらに早く波打つ上に嬉しさから顔の染まり具合までピークへ達してしまう。
真っ赤な表情を兜悟朗に見られるのは未だに恥ずかしいというのにこれでは防ぐ手立てすらもない。嶺歌は混乱しながらも自身の顔の熱を隠すようにそっと頭を俯かせた。
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