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「僕の身勝手な気持ちではありますが、お付き合いいただき有難うございます」
そう言って綺麗なお辞儀をしてくる兜悟朗は、やはりどこまでいっても紳士的で、眩しく見える。
嶺歌は丁重にお礼の言葉を告げてくる兜悟朗に対して言葉を繰り出した。
「身勝手だなんて思ってません、嬉しかったで、す。あたしの方こそありがとうございます」
そう口にすると、兜悟朗は柔らかく微笑んでから体を川の方へ向けて「深呼吸をするととても心地よいですよ」と提案をしてくれた。嶺歌は彼の言葉に倣ってスウッと深呼吸をしてみる。
すると、心地よい空気と共に自身の中に流れていた日々の疲れが一気に吐き出されているかのようで、想像以上に気持ちが良かった。
あまり体感した事のないこのような感覚を、嶺歌は身をもって体験し、兜悟朗の方を見て笑みを向けた。
「凄く良いですねこれ。気持ちがスッとなりました」
「それは何よりで御座います」
嶺歌の感想に兜悟朗は嬉しそうに言葉を述べる。
彼と一言一言を交わしていく中で、嶺歌の心は先程よりも遥かに温かくなっている感覚がしていた。
兜悟朗との時間は優しく穏やかに過ぎていき、しばらく川辺を眺めて空気を味わっていると「良いお時間ですので、そろそろ戻りましょうか。お送り致します」と彼の方から声を掛けられる。
あっという間に感じたこの時間を、嶺歌は名残惜しく感じながらもしかしそれを表には出さずにはいと答える。
名残惜しくはあるが、それでも帰りの時間で兜悟朗と少しでも一緒にいられる事をまた嬉しく思うのであった。
第二十八話『ドライブ』終
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