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形南が平尾を好きな理由は、形南本人が嶺歌の前でよく口にしているため印象に残っている。
一目惚れから始まった形南の恋心は、平尾の弱々しくも守ってあげたくなるようなそんな姿に胸が躍るのだそうだ。
嶺歌には彼に惚れるポイントがどことなく分からないのだが、形南の好みと嶺歌の好みが違うのは当然の事だ。そのため形南のタイプの男性像をとやかく言う資格は嶺歌にない。
それに本人が心の底から好いているのだと最近は形南の言葉だけでなく態度からも理解できている。
平尾を前にした形南はいつも誰に対する姿勢よりもより一層女の子らしくなり、頬を常に上気させ、本当に可愛らしい姿を見せるのだ。微笑ましく思えるほどに形南は分かりやすかった。
加えて最近は平尾へ向ける嶺歌の感情が変化しているのも事実だ。
彼が形南を本気で好いており、それが行動力に出ている事を嶺歌もきちんと知っている。
平尾は自分の為なら無理でも、形南の為であればきちんと恐怖の対象にも立ち向かえる勇気を持っている。勇敢さと言うべきだろうか。
そんな平尾を知ってからは嶺歌自身も、形南と平尾の関係を心から応援していた。平尾の良さは分からずとも、形南を思う彼の気持ちだけは信頼できているからだ。
「あ、あれないるね」
嶺歌は校門の少し離れた場所で黒いリムジンを背に立っている形南と兜悟朗の姿を目にする。
兜悟朗の姿を捉えた瞬間に嶺歌は一気に心臓の音が煩くなるのを感じていたが、変に思われないよう小さく深呼吸をした。
形南は嶺歌と平尾の姿に気が付くと顔を綻ばせ嬉しそうにこちらに上品に手を振ってくる。
そしてそのまま形南たちの元へ辿り着くと彼女は開口一番に「試験お疲れ様ですの」と声を掛けてきた。
「あれなもお疲れ。今回全く同じスケジュールだったね」
「そうなのですの! 嶺歌の御校と同じ試験日程でとても助かりましたわ」
そう言ってニコニコと満面の笑みを向ける形南は平尾の方へ顔を向けると彼に対して言葉を発する。
「平尾様、本日もお会いできて嬉しいですの」
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