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「嶺歌さんは既に平尾様のお気持ちに気付かれていらっしゃるのですね」
そう言ってバックミラーから優しく微笑む兜悟朗が見える。
嶺歌はそんな彼の表情に心を奪われながらも小さく頷いてみせた。しかしそう口にするという事は、兜悟朗も彼の気持ちに気付いているという話になる。
嶺歌は感心しながら兜悟朗に言葉を返した。
「兜悟朗さんもお見通しだったんですね。あたしは直接確かめたので、本人に聞くまでは確信を持てませんでした」
チラリと形南と平尾に話を聞かれていないか後ろを見やったが二人はお互いの空間に浸っている様子で甘い雰囲気を維持したまま言葉を交わしており、こちらの会話には気が付いていない様子だ。
それに安堵しながらもしかし嶺歌がより一層声を潜めて兜悟朗に言葉を向けると、兜悟朗は笑みを零した状態でこのように答え始める。
「平尾様は正直なお方ですので、それがなければ僕も確信を持てませんでした」
(あ、また僕って言った)
慣れたはずの彼の一人称に嶺歌はドキンと胸が弾むのを実感する。謙虚な言い回しにも胸は高まっていた。
会話に戻らなければと思いながらも再び心臓の音がうるさく鳴り響き、嶺歌は平静ではいられなくなる。そして嶺歌は兜悟朗のもう一つのあるところにも同じようにときめきを感じていた。
(兜悟朗さん、洞察力凄いな)
平尾の感情は分かり易いと言えばそうなのだが、平尾はコミュ障を多少なりとも持っており、どんな異性に対しても顔を赤らめてしまう事がある。
そのような場面は何度も見てきたし、ダブルデートをした時も彼は会計の女性と手が触れただけで顔を真っ赤に染めていたのだ。ゆえに形南が好きだから彼が顔を赤らめるという答えには中々辿り着けない筈なのである。
だが兜悟朗はそれを見破り、平尾が形南を想っているのだと断言していた。
そんな兜悟朗の洞察力に長けた万能な姿を再び目にした嶺歌は、彼への想いが溢れそうになっていた。
「楽しみですね」
彼への胸の高揚感を持ちながらも、嶺歌は形南と平尾に意識を向ける。そうして本心から思っていた言葉を小さく口にした。
「はい、そのような日を迎えましたらとても喜ばしいですね」
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