第二十九話『放課後』

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「ご歓談中失礼致します。形南お嬢様、到着致しました」  兜悟朗は車を指定の場所に停車させると後ろを向いて形南たちに声を掛け始める。  彼の顔が後ろに向いたことで嶺歌は少しだけ心が躍った。先程まで視線だけで会話をしていた兜悟朗が顔をこちらに向けさせただけでこれだ。  嶺歌は己の兜悟朗に対する気持ちの大きさを再び認識しながらも形南と平尾に目を向けた。 「あれな、平尾君。商店街だって」  すると形南はこちらに顔を動かすと嬉しそうに「平尾様、嶺歌! 参りましょうですの!!」と声を弾ませる。  その形南の興奮ぶりに嶺歌は口元が更に緩み、平尾もどことなく微笑ましそうな表情を形南に向けていた。  嶺歌たちはそのまま兜悟朗のエスコートでリムジンから降車すると広々とした商店街のゲート付近に足を向け始める。 「それでは皆様、ごゆっくりお楽しみ下さいませ。何か御座いましたら直ぐにお向かい致します」  兜悟朗はそう言って深いお辞儀をする。どうやら彼は今回留守番のようだ。  その事を少し残念に思いながらもしかし今回の目的は形南が同年代で遊びたいという目的からきている事を思い出して嶺歌は考えを改める。  兜悟朗にはまたこの後すぐに会う事ができるのだ。  そう思うとそれがまた楽しみになり、それに純粋に形南と街を歩けるのは嬉しかった。嶺歌の気持ちは簡単に前向きなものへと戻れていた。 (みんなで商店街かあ……楽しみ!)  形南と平尾の三人でという組み合わせは初めてだ。  嶺歌は二人の仲がそれとなくいい雰囲気であればその都度背中を押そうと考えながら商店街の中へ入っていった。 第二十九話『放課後』終                next→第三十話
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