第三十話『二人の雰囲気』

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第三十話『二人の雰囲気』

「平尾様! 嶺歌(れか)! こちらのコロッケを食べても宜しいですの!?」  商店街の中で形南(あれな)は興奮気味に店のコロッケ屋を手のひらで指し示しながらそんな事を尋ねてくる。  嶺歌は笑いながら頷き、平尾も「も、もちろん」と言葉を返していた。  その返しを受けた形南は更に嬉しそうな表情を見せると迅速な動きで店に立ち寄り、コロッケを選び始める。 「どちらのコロッケがおすすめですの?」 「お嬢ちゃん、ウチはじゃがいもコロッケがおすすめだよ」 「ではそちらをお願いしますの!」  店の中年女性とそんなやりとりを行った形南は財布を取り出し会計を始める。  そんな形南の様子を後ろから見守っていると平尾がポツリと「可愛い……」と言っている声が聞こえた。  恐らく無意識下で発せられたもので、心の声が出たものなのだろう。嶺歌が平尾に声を掛けると彼はいつも以上に驚いた様子でこちらを見返していたからだ。 「平尾君も別種類のコロッケ買ってあれなと分けたら?」  目を見開いて未だにこちらを見返す平尾を無視してそんな提案をしてみると彼はええっと戸惑いながらもしかし満更でもなさそうである。  形南が会計を終える前に行ってこいと彼に喝を入れると平尾は抵抗する事はなくそのままコロッケを買いに足を動かす。  そうして驚く形南の前で平尾がかぼちゃコロッケを購入すると「ふ、二人で分けない?」と提案をしていた。  形南は心底嬉しそうに笑みをこぼし、そんな二人を微笑ましく一歩離れた距離から眺めていると店主の女性が「何だい? 付き合いたてかい?」と笑顔で声を掛ける。  形南はまあ! と言いながら頬に手を当てて喜び、平尾は「ちっちがっ……います」と顔を真っ赤にして否定していた。  そんな二人を見た店主は笑いながら「青春だねえ」とお釣りのお金を平尾に手渡すと再び形南と平尾の空気感が変わり始める。 (おっなんかめちゃいい感じ?)
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