第三十話『二人の雰囲気』

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 形南(あれな)と平尾のそんなやり取りを目にしてやはり離脱しようと嶺歌(れか)は決意した。  形南とはまた二人で出掛けられればいいだろう。今はこの二人のくっつきそうでくっつかないもどかしくも幸せな状況を少しでも堪能してもらいたい。  嶺歌は形南と平尾の方まで足を進めていくと二人に向けて言葉を発した。 「悪いんだけどあたしあっちの方に見たいものがあってさ。でもかなり癖のある店だから一人で行きたくて。だから二人は二人で楽しんでてよ」  そう言ってすかさず平尾に目線を送る。  強い意志を込めて形南と二人きりのチャンスを無駄にするなという意味の視線を送ると平尾はそれを察知したのか小さく頷いた。 「まあ、けれど(わたくし)もそちらにご一緒したいですの。ねえ平尾様?」  形南が嶺歌を見てから平尾にそう言葉を投げると平尾は「そ、そうだね……」と言葉を漏らす。  簡単に形南のペースに巻き込まれそうな平尾に嶺歌は違うだろうと鋭い視線を送ると彼は焦った様子で「い、いやでもさ……」と言葉を続けた。 「い、和泉さん隠したい趣味があるとかないとか……く、詳しくないけど」 「あら……そうでしたの?」  何とも失礼な虚言を吐かれたものであるが、しかしナイスな返しに嶺歌は笑みを向ける。  形南がそのくらいの事で嶺歌を見限る事はないと知っている為まあいいだろうと平尾の言葉に同調してみせた。  そうして「ほんとごめん、後でまた合流しよ!」と明るく手を振ると形南も分かりましたのと微笑ましそうにこちらに手を振り、平尾も片手を上げて慣れない手つきで手を振る。形南には怪しまれていないようだ。  嶺歌は安堵しながら形南と平尾の視界から離れた場所でそっと二人の行動に目を向けてみる。  形南はとても幸せそうにコロッケを頬張っており、平尾はそんな形南を隠しきれていない熱い視線で見つめていた。  両片思いの二人は、第三者から見ればとても分かりやすく、微笑ましいものであった。  嶺歌も自然と口元が緩み、二人の姿を目に焼き付けるように眺めてからその場を離脱した。
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