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「お恥ずかしながら一目惚れなんですの。偶然彼の姿を見た時、私の身体全てが彼だと信号を放ったのですわ」
「一目惚れ……素敵ですね」
友人の一目惚れ話は何度か耳にした事があった。珍しい現象でもないのだろう。
しかし財閥のお嬢様でもこのように一目惚れを経験する事があるのかとそう考えていると形南は再び彼の写真を取り出してくる。
「彼の事は既に知っていますの。平尾正様。秋田湖高等学校の高校二年生。弱々しいお顔が、また素敵なのですわ」
名前を知っていたのかと少し驚く。
しかし財閥の娘であればそれくらいの調べは容易い事なのだろう。彼の写真を持っているのもそうでないと説明がつかない。
そう考えながら嶺歌は平尾の写真を大事そうにそっと胸元に当てる彼女に言葉をかけた。
「実行日はいつにしますか?」
形南の様子を見るにきっと今すぐにでも彼と知り合いたい事だろう。
嶺歌は「あたしはいつでも大丈夫です!」と意気込んでみせる。彼の前で物を動かして見せるくらいはどうって事はない。
魔法少女の存在がバレることだけは避けねばならないが、彼にはただ超常現象が起きた事だけを見せればいいのだ。自分は隅で隠れて演出に集中していればいい。
そう思いながら彼女にガッツポーズをしてみると形南は再び嬉しそうに瞳を輝かせ、満面の笑みでお礼を告げてきた。
「感謝してもしきれませんの! 実行日は明日にでもお願いしたいですわ!」
再度興奮気味になった形南はそう言うと「兜悟朗! 明日は勝負時ですのよ!」と運転席に向かって大きく声を張り上げる。
しかしこうして声のボリュームを大きくしていても尚、上品さが失われないと言うのは感服である。流石は財閥のお嬢様だ。
嶺歌はそんな事を考えながら彼女の嬉しそうな横顔を無意識に微笑んで見ていた。
第三話『運命の』終
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