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「ですが僕にとっての休養は、形南お嬢様にお仕えする事も同然なので御座います。あの方の成長をお見届けする事こそが僕の喜びです。ですからご心配には及びません」
(なんて……)
真面目な人なんだろう。執事の鑑だ。これほどまでに主人に敬愛を持つ執事が他にいるのだろうか。
そう思ってしまうほどに兜悟朗の強い忠誠心を目の前で見て、嶺歌は彼の生き方そのものを心の底から尊敬していた。彼が想い人であるからという理由は一切関係なく、一人の人間として素晴らしくできた人であると、そう感じた。
そんな事を感じ取りながら嶺歌は暫し兜悟朗との時間を過ごす。
そろそろ形南達も楽しんだ頃合いだろうと思った時間になると、嶺歌は形南との約束通りに商店街の方へ戻り、形南と平尾の二人を見つけて合流をした。
彼女らと会話をしながらも嶺歌はそこで先程起きた兜悟朗とのやり取りを思い出していた。
リムジンから嶺歌を見送る時、兜悟朗は微笑みながら嶺歌にこう言葉を口にしていたのだ。
「嶺歌さん」
「今川焼きとても美味しかったです。嶺歌さんが購入して下さったからこそ、美味しくいただく事ができました」
そう言って彼はそれでは行ってらっしゃいませと丁重なお辞儀をして嶺歌を見送っていた。
今思い出しても彼のあの台詞は嶺歌にとってご褒美のような物だった。
(兜悟朗さんて無意識天然……?)
彼に邪な考えがあるとは思えない。
あったとしても嶺歌にとって嬉しい以外の感情は湧かないのも確かなのだが、そう思ってしまうくらいには、兜悟朗に夢中になっている自分に気が付き、形南と平尾に合流したものの、頭の中は兜悟朗への想いでいっぱいいっぱいになっていた。
第三十話『二人の雰囲気』終
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