第三十二話『夏休みの想い人』

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「なんかそんなにたくさんいるって思うと心強いね。聞けてよかった」  嶺歌(れか)が笑みを向けながらそう言葉にすると形南(あれな)はあらと言いながら嬉しそうに口元に手を当てて微笑み返してくる。嶺歌の感想が嬉しいといった様子だ。 「本日は子春(こはる)(わたくし)の専属としてお付きしますの。子春、挨拶なさい」  そう言って形南が後ろに控えていた一人のメイドに声を掛けるとその女性は一歩前に出てロングスカートを持ち上げながら華麗に挨拶をしてくる。 「和泉(いずみ)様お初にお目にかかります。本日形南お嬢様にお仕えさせていただきますメイドの村国(むらくに)子春と申します。以後お見知り置きを」  メイドの子春は目を伏せながら小さく一礼をすると顔を上げて嶺歌をそっと見つめる。  彼女の文句ひとつ出ない程に綺麗なその所作は、形南の専属メイド候補としての優秀さを醸し出していた。嶺歌も直ぐに彼女にお辞儀を返し、言葉を発する。 「初めまして、和泉嶺歌です。こちらこそどうぞよろしくお願いします」  そう言って彼女の真っ直ぐこちらを見据える視線に失礼のないよう目線を返すと、子春はニコリと柔らかな笑みを向けてくれた。  微笑み方もピカイチだ。もしかしたら彼女こそが今回の専属メイドとして認定されるのかもしれない。  そう思う程に彼女はメイドとしての品格も美しさも兼ね揃えていた。 (兜悟朗(とうごろう)さんも凄すぎるけど、メイドさんも皆ホントすごいな……)  エリンナと子春を見て心の底から本当にそう感じられていた。  するとそんな様子を見ていた形南は唐突に思いも寄らない情報を口にしてきた。 「実は子春は、兜悟朗の後輩なのですのよ」 「えっっ!?!?!? 兜悟朗さんの!?」
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