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第四話『実行』
「嶺歌ぁ〜今日寄り道しない?」
放課後になると友人の木本古味梨に誘われる。
いつもなら頷いてどこかへ出かけるところであったが、今日はやっておきたい事があった。
「ごめんこみ、あたし今日は用事あるから無理。また近い内どっか行こう」
「そかそか! 全然いいよ〜じゃあまた明日!」
彼女は気分を悪くする事もなくそのまま互いに笑顔で別れた。
嶺歌は足早に廊下を駆けて下駄箱へと向かう。途中途中で様々な知り合いに声を掛けられるが、必要最低限に挨拶を返すと急いで目的地へと向かっていった。
「さて……と」
嶺歌は自宅に戻ると魔法少女の姿へと変身し、窓から外に出る。
やっておきたい事というのはいつもの魔法少女活動だ。明日は一日形南との約束で活動ができないだろうと踏んでの事だった。時間がある時に依頼はこなしていきたい。
魔法少女の活動は金銭を稼げたりする仕事ではないのだが、それでも嶺歌にはこの活動を続けたいという強い意志があった。
特に何かを得られるわけではない事は初めて魔法少女になった時から分かっている。
だがこれは誇りの問題だ。嶺歌は誰かの役に立てることが嬉しかった。誰かの役に立てるという事は自分のためにもなるからだ。
必要とされる自分が誇らしいと思っているのである。依頼をこなせばこなす程、嶺歌は自分に自信が付き、やる気ももっと向上する。
きっとこの感情は人一倍大きな物であると自負している。そのため誰かのために時間を費やすことは全く惜しくないのだ。
だからこそ、形南の依頼も受けたいと思ったのである。人に喜ばれるのは嬉しいし誰かを救う事は気持ちが良い。そして何より――――自分をもっと好きになれるのだ。
嶺歌が魔法少女として積極的に活動できる一番の理由はこれだった。
「今日はこんなもんかなっと」
数件の依頼をこなし終えるといつの間にか時間は過ぎていた。
嶺歌は暗くなった空を背景に多くの屋根を伝って駆け抜けていく。そのまま自宅まで辿り着き部屋に入ると瞬時に変身を解いた。
「ふう……」
僅かな汗をタオルで拭いながらリビングへと向かう。母と対面し「お風呂入るね」と声を掛ける。母は「湯船流しちゃってね〜」とこちらを見ずにそう言いながら洗い物をしていた。
嶺歌はそんな母に対し分かってると言葉を返してそのままシャワーを浴び、湯船に浸かる。
今日も色々とあったが、平和な一日だ。
嶺歌は今日の疲れを湯船で癒しながら明日の事を考えていた。
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