第三十三話『家庭』

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 その言葉の意味に疑問を持った嶺歌(れか)はそのまま形南(あれな)に目を向けて疑問を投げかける。  すると形南は補足するように言葉を続けた。 「兜悟朗(とうごろう)は確かに優秀な(わたくし)の執事ですわ。嶺歌が思われている通り一番に彼を信用しておりますの。けれどね、兜悟朗にも嶺歌にも楽しい時間をと私は望んでいますの。兜悟朗の代わりはいくらでもいるのです。一日や二日、彼が不在であっても私には何も支障はないのですのよ」  ですから兜悟朗を一日嶺歌が独り占めしても何の問題もないのですの! と形南は目をキラキラと輝かせてそう断言する。  その彼女の興奮ぶりに、嶺歌は疑う余地もなく、形南が心から自分の恋を応援してくれている事を認識した。本当に良い友達を持った。 「ありがとうあれな。本音言うとどこかの休みで一日だけ、兜悟朗さんと出かけられるチャンスが欲しいんだけど……」  兜悟朗と二人きりで外出できる可能性をこれまで絶対的に無理だと思い込み、夢のような話であると、彼を好きになってからそう結論を出してしまっていた。  だが現に今、形南がとてつもない程に前のめりになって協力しようとしてくれている。  そこまで考えて嶺歌は、兜悟朗とのお出掛けを期待してしまっている自分に気が付いた。そうしてその事に顔が熱くなる。 「あらっ嶺歌ってば! 本当に兜悟朗がお好きなのね、喜ばしい事だわ!!」  形南はそう言って嬉しそうに両手を叩いて笑みを溢すと、先程の嶺歌の言葉に向けてこのような発言を口にしてきた。 「兜悟朗には(わたくし)の方から嶺歌と二人きりで出掛けられるよう手配致しますの! お任せくださいな!」  まるで自分の事のように幸せそうな顔をしてそう口にする形南は、嶺歌の嬉しさを促進させてくる。  胸が熱くなるのを感じながらありがとう! と言葉にすると『コンコン』とノック音が部屋に響いた。途端に嶺歌と形南の二人は一度会話を中断させる。 「形南お嬢様、子春で御座います。お入りしても宜しいでしょうか」
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