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ドア越しに聞こえる声は先程嶺歌と挨拶を交わしたメイドの子春だ。
防音機能が働いているせいか、彼女の声は大きく張り上げられていた。
流石に扉付近で大きく声を繰り出せば、防音室とはいえ声は聞こえてくる。しかしそれ程に大きな声でも彼女の上品さと丁寧さは失われていなかった。
その事に感心していると、真向かいに座っている形南はいいですのよと柔らかくも聞こえやすい大きな声を発して彼女の入室を許可する。そんな形南の大きな声も、子春同様に気品さが保たれており、嶺歌は友人の形南に対しても感服していた。
主人の許可が下りると一拍の間を置いてからガチャリと丁寧に扉が開けられた。
中に入ってきたのは子春一人だけであり、兜悟朗の姿はなかった。
嶺歌は少しだけ期待していたが、直ぐにその考えを振り払った。先程彼には会ったばかりではないか。そう自分に心の中で言い聞かせていた。
しかし、少し前に会ったばかりだと言うのにもう会いたいと思うのは、本当に不思議で初めて感じる感情であった。これこそが恋なのだと頭では理解しているものの、そう思うのは何故だろうとその理屈が気になる自分もいる。
「失礼致します。ニュージーランド産のカボチャを使用して調理しましたカボチャクッキーをお持ち致しました」
子春はそう言ってきらりと輝く豪華なお皿に並べられた綺麗な形の丸いクッキーをお盆の上に乗せ運んできた。
嶺歌はいい匂いに相まってとてつもなく美味しそうに見えるそのクッキーに思わず目を輝かせる。
「ありがとうですの。そちらを置かれたらもう下がって宜しくてよ」
「畏まりました。ですが形南お嬢様、この子春に一点だけ発言を許可していただけますでしょうか」
「ええ、宜しくてよ。どうなさったの?」
形南が子春にそう尋ねると彼女は綺麗な姿勢を維持したまま小さく一礼をして形南の前で口を開く。
「先程、例のものが届いておりました。ご友人とのご歓談中に大変恐れ入りますが、形南お嬢様には是非ご自身の目でお確かめいただいた方が宜しいかと」
「まあ! あちらが届いたのですのね!?」
すると形南はやや興奮気味になり、席を立つと両手を頬に添えて嬉しそうに首を振り始める。
嶺歌がどうしたの? と理由を尋ねると形南は喜びに満ちた笑みを向けながら「もう少ししましたらお話ししますの!」と答え始めた。一体何が届いたのだろうか。
嶺歌が疑問に思いながら形南を見つめていると、形南は嶺歌に両手を合わせながら小首を傾げてこう言葉を発する。
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