第三十三話『家庭』

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嶺歌(れか)、大変申し訳ないのだけれど、十五分ほどこちらでお待ちいただけるかしら? どうしても今確認に行きたいのですの。きちんと理由は後程ご説明させて頂きますわ」  眉根を下げながらそう言葉にする形南(あれな)に嶺歌は屈託のない笑顔を向けて頷きながら言葉を返す。 「全然いいよ、楽しみにしてる」 「ありがとう御座いますの! それでは少々お待ちになっていてね!!」  形南は嶺歌の返答にパアアッと嬉しそうな表情を浮かべると急ぎ足で部屋を出ていく。  嶺歌はそんな彼女の後ろ姿が浮き足立っている事に気が付いて途端に口元が緩んだ。形南は本当に、純粋で可愛らしいお嬢様だ。あのような友達が近くにいたら何だって応援したくなる。  そう思い、ふと部屋にまだ残っている子春に視線を向けた。彼女は形南のそばについていなくていいのだろうか。  嶺歌が素朴な疑問をそのまま問い掛けてみると、彼女はニコリと笑みを返しながら「問題御座いません。形南お嬢様には宇島先輩がいらっしゃいますので」と返答してくる。  そう聞いて嶺歌はなるほどと納得をしていると、子春は再び口を開き始めた。 「和泉(いずみ)嶺歌様」  唐突にフルネームを呼ばれる。  嶺歌は不思議な思いを抱きながらも子春を見上げた。  そしてはいと言葉を返すと彼女は先程とは違った――全く予想しなかった単語を投げ掛けてきた。 「貴女のような低俗な者が、高貴な形南お嬢様と完璧な宇島(うじま)先輩のお側にいるだなんて、身の程知らずにも程があります」
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