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「?」
一瞬何を言っているのか分からなかった。
子春の声色は先程より何倍も低くなり、嶺歌が見惚れてしまうほどに美しかった所作は今の彼女には見受けられない。丁寧さを意図的に欠いているのだ。理由を考える前にそれだけは理解する事が出来ていた。
それに、目の前に立つメイドの嶺歌を見る視線はどう贔屓目に見ても敵意を持っているようにしか感じられない。
嶺歌が唖然として言葉を失っていると子春はそれに構わず言葉を続けてきた。
「それだけではありません。宇島先輩の事をあのようにお呼びするだなんて……何て無礼なのでしょうか」
あのようにと言うのは嶺歌が彼の事を『兜悟朗さん』と呼称している事を指しているのだろうか。
それの何が気に触るのかと本気で思考を始めていると彼女はまだ言い足りないのか無言の嶺歌を前にして言葉を放ち続ける。
「申し訳ありませんが貴女の事はお調べさせていただきました。以前からお話は伺っておりましたので気になっていたのです」
その言葉には特に不快な思いを抱かなかった。主人の交友関係を気にするのは従者として当然であろうと嶺歌なりに理解しているからである。
そしてもしかしたら彼女も平尾のように嶺歌を形南にとっての害悪な存在として誤解しているのかもしれないと、そんな考えが思い浮かぶ。
(そうか、この人もきっと心配して……)
しかしそう思った嶺歌の心境は、次の彼女の一言で一変する。
「貴女…ご家庭の環境も複雑ですよね?」
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