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それはメイドに限らず執事の試用期間の際にも行われる事のようで、高円寺院家の従者となる者は皆必ず通る道なのだと兜悟朗は告げる。
つまり専属メイドになるには表上だけでなく、裏面も美しく綺麗な心を持った者のみが初めて高円寺院家の従者として仕える事ができるという事だ。
だからこそ、形南の周りにいる従者達は皆、洗練された丁寧で律儀な人物ばかりなのだろうと嶺歌は一人納得をした。
すると兜悟朗は再び口を開き始める。
「ですから村国の音声から嶺歌さんに攻撃的な発言をしている事態を知る事が出来ました」
子春は盗聴器があるなど思いもしなかっただろう。嶺歌以外誰にも聞かれてはいまいと疑う事なくあのような発言を繰り出したのは間違いないようだった。
そう考えていると兜悟朗はもう一度こちらに頭を下げて謝罪の言葉を口にした。嶺歌は何故もう一度謝ってくるのか分からず困惑の声を上げる。
「村国の言葉だけではなく、嶺歌さんのお声も耳にしてしまいました。聞かれたくないであろう事柄を、僕は聞いてしまったのです。どうか、お詫びさせて下さい」
兜悟朗は嶺歌の先程の発言も全て耳にしていたようだ。それ自体は構わない。
それに彼に聞かれていたとしても困る事などない。だが一つだけ、今回の件に関して嶺歌にも願いたいことがあった。
「兜悟朗さん」
嶺歌が尚も頭を下げ続ける兜悟朗の名前を呼ぶと、彼はゆっくりとこちらに顔を向ける。
そんな彼と視線が合い、嶺歌はそのまま続けて言葉を発した。
「聞かれていた事は全然気にしていません。ただ……」
「あたしは自分の家族の事を恥ずかしいとは思いません。母さんはあたしと妹を育てるために収入の良い仕事を選んで必死で働いてましたし、娘を二人育てるためにお義父さんと再婚した事も凄く賢い生き方だと思います。あたしはそんな親に誇りも持ってますし今の家族が好きです。だからあたしが自分を不幸な人間だと思っていると思わないでいただけると助かるっていうか……」
嶺歌はそう言って地面に視線を移す。
下を向いて会話をするのは初めての事だった。自分はいつだって誰に対しても前を向いて会話をしてきたつもりだ。
だがそれは、今回の騒動のせいなのか気持ちが沈みかけている自分がいるせいなのか、兜悟朗の目をうまく見れないそんな自分がいた。
そのまま言葉に詰まり、沈黙に陥ると数秒の間を置いてから兜悟朗の一声が、嶺歌に向けられた。
「貴女様がご自分を不幸だと思われていると感じた事は御座いません」
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