第三十三話『家庭』

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 その一言で嶺歌(れか)は顔を上げる。  兜悟朗(とうごろう)の柔らかな顔は嶺歌が思っていた通りに、優しげで温かく、今すぐに自分の全てを包み込んでくれるようなそんな雰囲気を出してくれている。兜悟朗はそのまま優しく微笑むと嶺歌を見据えたまま言葉を続けた。 「嶺歌さん。貴女は、強くも逞しくて正義感に溢れた素敵な女性です」  そうしてそっと嶺歌の手を自身の手で持ち上げ、あたたかな体温が嶺歌の右手から伝わり始める。 「貴女がこれまで魔法少女の活動を続け、ご家族を思い遣って日々の暮らしをお送りになられている事を、僕は存じております。嶺歌さんが毎日を楽しく過ごされていられる事は、紛れもなく嶺歌さん自身がご自分を大切にして生きていらっしゃるからなのだと、恐縮ながらも僕はそう分析しております」  嶺歌の手を握った優しい大きなその手は、ゆっくりと兜悟朗の方に近付いていき、やがて彼の顔の前まで持ち上げられる。 「僕はそのような貴女の姿を、以前から尊敬し続けております」 「その認識はこの先も変わることがありません。この場で今、お誓い致します」  そこまで口にした兜悟朗は壊れ物を触るかのような優しい手つきで、嶺歌の右手の甲に口付けを落とした。  あの時の口付けとはまた違った、だけどどちらも甲乙つけ難い程、慈愛で満ちているものである事だけは確かだ。  嶺歌は兜悟朗の美しい所作の口付けを静かに受け入れると兜悟朗は伏せていた目をゆっくりと開けながらこちらに目線を送った。 「嶺歌さんはどうか、これまで通りご自分に誇りをお持ち下さい。貴女様の自信に満ち溢れたお姿が、僕はとても好きです」 (……っえ!?)  途端に好きというその単語に嶺歌は過敏に反応する。  分かっている。彼の意味がそうでない事など。  だが初めて放たれた彼からのはっきりとしたその好意的な台詞に、嶺歌の心は掻き乱された。これはとんでもなく――嬉しいどころの話ではない。
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