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「嶺歌!」
すると扉がバンッと大きく放たれ、息を切らせた様子の形南が部屋に入ってきた。
彼女は涙目になりながら嶺歌の方へと駆け寄ってくる。そうして嶺歌に抱きついてきた。
「嶺歌! 本当に何とお詫びしたらいいのか……!! 申し訳ありませんの! 私の人を見る目が培われていないばかりに……」
形南はどうやら子春の事を聞いてここまで急いで来てくれたようだ。
彼女はゼエゼエと息を切らしながらも嶺歌に言の葉を紡いでいた。
嶺歌はそんな形南の様子に口元を緩めながら大丈夫だよと声を返し、身体を震わせたままの形南の背中を優しく撫でる。
「兜悟朗さんがガツンと言ってくれたからあたしは平気。あははっ息切らしすぎだって!」
嶺歌がそう言って笑みを投げると形南はそんな嶺歌を見上げて小さくよかったですのと声を返す。本当に相当焦っていたようだ。
「エリンナにお聞きしましたの。私が席を外したせいね」
しょんぼりとした様子で形南はそう嘆き、しかし嶺歌は全くそうは思わなかった。
「いや、どの道二人きりを見計らって言われてたと思うからあれなのせいなんかじゃないって。ほんと気にしないでよ」
そう言って兜悟朗の方を見る。
彼は嶺歌の視線に気が付くと温かな笑みをこちらに向けてから「形南お嬢様」と声を掛け始める。
「嶺歌さんの性格はご存知で御座いましょう。彼女はとてもお強いお方。この後は形南お嬢様と楽しいひと時を送られる事を望んでいらっしゃると思います」
彼はそのような上手い言葉で形南の気分の低下を止めに入った。
切り替えの早い形南はその一言でパッと目の表情を変えると「そうですわね!」と大きく声を張り上げる。
「嶺歌! 謝罪を含めて今夜はパーティーですの!」
「ええっ!? でも今日は稽古があるんじゃ?」
「そのようなもの、キャンセルですわ! 問題ありませんのっ! ご友人を優先せずしてどうしましょう!!!」
どうやら形南は本気のようで目を強く光らせると早速準備に取り掛かるようにと兜悟朗と形南の後ろからやって来ていたエリンナに指示を出し始める。
そんな形南の様子を見て嶺歌は呆然とするものの、彼女の気持ちが素直に嬉しく思えた。
あのような事があっても嶺歌の気分はもう十分に癒えていた。それは他でもなく、兜悟朗と形南の嶺歌を慮る思いが驚くほどに大きいものであるのだと理解できたからだった――。
第三十三話『家庭』終
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