第四話『実行』

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「ありがとうございます」  そう口に出しているといつの間にか兜悟朗(とうごろう)は運転席から離脱し突然嶺歌(れか)の横にあるドアが開け放たれる。  ドアを開けたのは兜悟朗だ。兜悟朗は柔らかな笑みを向けて「どうぞ」と手を伸ばしてきた。本当に行動が早い執事である。  嶺歌は差し出された手に僅かに照れ臭さを感じながら「すみません」と言って彼に自身の手を委ねた。  車から降車すると形南(あれな)が「ではまた後でお会いしましょうね」と言って可愛らしい笑みを向けながら手を振ってくれる。  彼女に応えるように嶺歌も手を振り返すとそのままリムジンは校舎から離れていった。  大きなリムジンが段々と小さくなっていくのを目で見送っていると「嶺歌? 今の誰?」と詩茶(しず)が話しかけてきた。唐突な出現に嶺歌は驚く。 「びっくりした! おはよう詩茶」 「あはは、驚きすぎ! おはよー」 「今のは友達。ここまで送ってくれたの」 「ええ〜あんなお金持ちそうな友達いたの!? まあでも嶺歌は顔広いしなあ〜」  そんな会話をしながら嶺歌は詩茶と二人で校舎の中へと入っていく。  まだ三日の付き合いではあったが、嶺歌の中では形南の事が既に友達になっていた。それに彼女も以前友達になりたいと言ってくれていた。  今回の件が終わったら彼女への呼び方も変えてみてもいいかもしれない。 (とりあえず今日は、放課後に集中っと)  嶺歌は放課後に迫った重要案件を頭で何度もシュミレートし、今日の授業は中々頭に入ってこなかった。
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