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美術館の中は思っていた通りとても静かで、中にそれなりの人がいるにも関わらず、マナーを守って黙々と観賞している礼儀正しい客ばかりであった。
嶺歌も兜悟朗と共に行動をしてはいたものの、決して私語は口に出さないよう注意していた。当然ながら兜悟朗も終始静かに芸術作品を目視していた。
そんな彼の横顔も嶺歌にとっては心が弾む要因の一つとなっており、兜悟朗と二人で訪れた美術館はとてつもないほどの喜びを生み出してくれていた。
「お楽しみ頂けたでしょうか」
美術館を全て回り終え、外に出たと同時に兜悟朗は柔らかく腰の低い調子でそう尋ねてくる。
嶺歌は楽しかったですと素直な感想を口に出すと、兜悟朗も嬉しいのか柔らかな顔を更に和らげ、それは何よりですと答えてくれる。そうして自分も楽しかったのだと、彼自身の感想を教えてもらう事もできていた。
それから具体的に印象に残ったものは何かを少しだけ話し合った。
嶺歌はそこまで芸術に詳しくはないが、自分が直感でこれは好きだと思えた作品を彼に伝え、兜悟朗も彼なりに好ましいと思った作品を教えてくれる。
その彼の好きだと言う作品を聞いてあの作品の事かと頭の中で思い出すと、嶺歌は兜悟朗らしいとそう思うのだった。
こうして兜悟朗と芸術の感想を言い合うのは初めての経験であり、彼と初めて何かをしたという事実がとても嬉しかった。
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