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芸術鑑賞を終えると兜悟朗の提案で美術館の隣に隣接している喫茶店で昼食を摂る事になった。
形南の稽古は夕方頃に終わる予定だそうで、まだそれまで時間がたっぷりある事を認識する。
喫茶店の店員に案内された座席に腰を掛けると兜悟朗は穏やかな表情を保ったままメニューをこちらに渡してきた。
「お先にお選び下さい。本日は折半でいかがでしょう?」
今日の外出はお礼やお詫びと言った類のものではない。
単に時間と予定が合った二人が形南の後押しで一緒に出かける事になった、そんなお出掛けだ。ゆえに嶺歌が彼に奢られるといった状況にならぬよう兜悟朗なりに考慮してこのような提案をしてくれているのはすぐに理解できていた。
嶺歌は自分の立場になって考えてくれる兜悟朗のこの気遣いが本当に大好きだ。
彼に視線を返しながら「それでお願いします」と笑みを向けると兜悟朗も柔らかな笑顔で応えてくれる。とても和やかな休日だ。
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