28人が本棚に入れています
本棚に追加
「嶺歌さんが他の誰でもなく、僕自身をエスコートの相手でいてほしいのだと告げられた事に、僕は確かに喜びを感じました」
(そ、それって……)
兜悟朗の直接的な言葉を耳にして嶺歌の心は次第に大きくなっていく。
兜悟朗も好意的に嶺歌を見てくれていると、そういう事なのだろうか。たとえそれが異性としてのものでなくても、彼自身にそう思ってもらえている事がとてつもなく嬉しい。
嶺歌は兜悟朗に視線を向けたままその場で何と声を返そうか思考を巡らせていく。
「形南お嬢様にとって嶺歌さんが大きな存在であられている事は間違いありません。ですがそれは僕にとっても同じ思いで御座います」
「嶺歌さん」
「今後もどうぞ、形南お嬢様共々よろしくお願い致します。僕は貴女に会える日がとても、楽しくて仕方がないのです」
そう言った兜悟朗は慈愛の込められた表情で嶺歌を優しく見据える。彼の深緑色の瞳に魅入られ、嶺歌の全身は嬉しさで満ち溢れていた。
このような喜びの言葉をまさか彼本人から貰う日がくるとは夢にも思わず、この今の状況は嶺歌の予想を遥かに超えていた。
嶺歌は赤らんだ顔のまま兜悟朗に目を向けると「こちらこそ宜しくお願いします」とやっとの思いで言葉を返す。
嬉しいという思いが嶺歌の心中に溢れ返り、平静ではいられない自分がいる。
そして今日一日を、彼と二人きりで過ごせた事の全てに心の底から感謝していた。
第三十五話『デートとして』終
next→第三十六話
最初のコメントを投稿しよう!