第三十六話『夏祭りに』

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「おっ和泉(いずみ)じゃん!!」  夏祭りは夜になる前でも人が多く人気の場所だ。  人混みの中をはぐれないよう嶺璃(れり)と手を繋ぎ、皆固まって動いていると唐突に名前を呼ばれる。  低い声であることから青年のものである事が分かり、嶺璃ではなく嶺歌(れか)に向けて放たれたものだと瞬時に理解した。 「古町(こまち)、来てたんだ」 「おおっ!? 他クラス女子じゃん! なんだよお前らも来てたんだな」  そんな風に言って陽気に笑うのは嶺歌と同じクラスの古町嘉斗(かいと)だった。休み時間に時々会話をする事がある彼と休日に会うのは初めてだ。  古町の性格は明るく顔が広いので、一緒に来ている古味梨や餡、雪沙も知り合いだった。ここにいるメンバーは皆それなりに顔が広いのだ。 「古町ここ遠くなかった? よく来たね〜!」 「古町くん一人?」 「いんや、今は別行動なだけで後で落ち合う予定」  そんな会話を目の前の古味梨と雪沙が続けていると古町はチラリと嶺歌に目を当てながら「浴衣めっちゃ可愛いなー」と口にする。  嶺歌は今日の自分に自信を持っていたため「まあね」と言葉を返した。否定するのも変な話だ。 「うわっそれ自分で肯定しちゃうんか!? さすが和泉」  からかってくるような彼のその発言に嶺歌は率直な意見を返す。 「いやあんたが言っといて何言ってんの。あたしは今日自分を可愛くするために着飾ってきたんだから当然でしょ」 「そうだよ嶺歌に謝れー!」 「嶺歌ちゃんの自信満々なとこ、見習いたい〜好きっ!」  嶺歌が思ったままに口にするとそれに連なるように同行者からの声が応戦してくる。皆祭りでテンションが上がっているのかいつもよりノリが強い気がする。  それぞれが再び会話を繰り広げる中で嶺歌は一人、兜悟朗(とうごろう)の顔を思い浮かべた。
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