第三十六話『夏祭りに』

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 嶺歌(れか)が少し前屈みになり、嶺璃(れり)の視線に自身の目を合わせると嶺璃は眉根を下げて反省した様子を見せながらうんと声を漏らした。よし、これでもういいだろう。 「うん。じゃ、気を取り直して行こっか」  そう言って嶺歌は嶺璃の手を再び握って歩き出す。古町もそのまま着いてきており「仲いいんだなー!」と声を掛けてきた。  嶺璃との仲の良さを自分でもよく理解していた嶺歌は、それを肯定しながらある事を思いつき「おっそうだ、写真撮ってよ」と彼にスマホを渡す。  せっかく嶺璃と祭りに来たのだ。嶺璃との記念写真くらいは撮っておきたい。 「おーいいぜ」  古町は嶺歌達と共に人混みの邪魔にならなさそうな端の方まで足を運ぶと、そのままスマホのシャッター音を鳴らして写真撮影を始めた。  そうして嶺歌にいい感じに撮れたぞーと笑顔を向けると途端に「ん?」と不思議そうな声を出す。  そんな彼の様子を見て嶺歌は何だと尋ねると、古町は嶺歌にスマホを見せながらこんな言葉を口に出した。 「いや……すまん、写真確認する時少しフォルダ見えたんだけど、この男誰?」  古町がそう言って指してきたのは写真に映った兜悟朗(とうごろう)だ。これは前回の二人きりデートの際に嶺歌が偶然シャッターを押してしまい撮れた奇跡の一枚だった。写真には横顔の見える兜悟朗が一人で写っている。  消した方がいいのだろうが、偶然にも撮れた兜悟朗のこの写真を嶺歌は毎日大切に見返していた。  我ながら思うところはあるが、恋をしてしまっている以上このくらいは許してほしいものだ。  嶺歌は顔が熱くなるのを感じながら古町に返してとスマホの返却を催促した。 「え、何その反応」  古町は敏感にも嶺歌の態度に気が付きこちらをまじまじと見てくる。  放っておいて欲しいのだが、嶺璃もいる手前みっともない姿を見せたくはない。 「関係ないでしょ。ほら早く行こうよ」  そう言って話を逸らすが、嶺歌の顔の熱は治まりそうになかった。  しかし嶺璃が途端に駆け出し、ヨーヨー釣りの方へと走っていく。  嶺璃はヨーヨー釣りに意識が向いているのか大はしゃぎの様子で、そんな嶺璃と手を繋いでいる嶺歌も彼女につられ自然と走っていた。  後ろから古町が着いてくる気配を感じながらも嶺歌はとりあえず話を逸らせたことに安堵し、自身の顔の熱を抑える事に集中していた。
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