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その日は特に何もない一日で、コンビニまでアイスを買いに出た帰りの事だった。
嶺歌はいつものようにマンションのエントランスに入り、自宅のある五階へ移動しようとする。しかしそこで嶺歌は見た事のある人物に遭遇した。
「お久しぶりで御座います」
そこにいたのは、試用期間を設け、形南の専属メイドの候補者として働いていた村国子春だった。
嶺歌は彼女の鋭い視線にそのまま目線を返す。何故という疑問は湧かなかった。
彼女はあの日、嶺歌の事を調べていたとそう口にしていた。であれば嶺歌の自宅を知っていても何ら不思議ではない。
それにクビになった彼女が逆恨みで嶺歌の元へ訪れるという状況も可能性として考えていない訳ではなかった。
「何の用ですか」
嶺歌は対面する子春に向かって声を出す。
子春は以前のような洗練された美しい動作を見せる事は一切なく、腕を自身の前で組みながらこちらを睨みつけていた。敵意が丸出しである。
「性懲りも無く宇島先輩にまとわりついているようですね」
子春はそう言って嶺歌に一歩近づいた。
「宇島先輩に近付かないで」
彼女は以前にも兜悟朗の事をよく口に出していた。
あの時は怒りで他の事に意識が回らなかったが、今ならその意味がよく分かる。
子春も兜悟朗を一人の男性として好いているのだろう。恋心が行き過ぎると彼女のように他者への危害も厭わない性格となる者も中には存在するようだ。
嶺歌は理解に苦しんだ。振り向いてもらえない事を他人の所為にしないでほしい。
「あなたにそれを言う権利ないですよね」
嶺歌ははっきりそう告げると、子春は再び嶺歌を睨みつけてきた。
しかし彼女の鋭い目つきも嶺歌にとっては恐怖の対象にならない。魔法少女の活動でこのような事案には慣れている。
嶺歌は再び口を開いて子春を見据えた。
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