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「和泉嶺歌様にお話があって参りました」
数日後に子春は予測通りやってきた。マンションのインターホンを鳴らし、再び現れた彼女はスーツを着用しており、まるで嶺歌に関して何かを伝えにきたとでもいう体を装っている。
嶺歌はそのまま自宅まで上げる事にした。
家族を巻き込む事をしたくないのは今でも同じだが、家族は今全員が不在中だ。嶺歌があらかじめそうなるよう誘導していた。
子春がいつ嶺歌の元へ訪れるのかも事前の調査で知っていたからだ。
マンションのオートロックを開け、自宅前までやってきた子春を家の中へと上げる。密室の方が好都合なため作戦通りである。
何も知らない子春はそのまま嶺歌のテリトリーの中に足を踏み入れると「あら……ご家族は?」と困惑の色を出し始めた。
彼女はきっと家族の前で嶺歌に恥をかかせようとしていたのだろう。その為嶺歌の家族が自宅の中にいる事が彼女の中では大事だったはずだ。
しかし嶺歌はさも知らぬそぶりで「いませんけど」と声を返す。
すると子春の様子が一変した。
「何でいないのっ!? 外出なんてしてなかったじゃない!!!!!」
「監視でもしてたんですか? 何でそんなプライベートな事知ってるか不思議ですけど」
本当は、子春がここ数日間嶺歌のマンション前で嶺歌の一家を見張っていた事を嶺歌は知っていた。他でもなく嶺歌も子春を見張り続けていたからだ。
子春はどうしても嶺歌一家が揃っているところで勝負に出たかったようで、家族が全員家の中に入ったことを確認してからインターホンを鳴らそうと企んでいたようだ。
それを知っていた嶺歌は子春にだけ見えない透明魔法を家族全員にかけていた。そのため家族がマンションのエントランスを出たとしても子春はそれを認知する事が出来ない。
だからこそ今、子春はひどく動揺している。きっと自分の尾行の腕前に相当な自信があったのだろう。
「で? 何で来たんですか」
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