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咄嗟に小声で驚いた自身の空気を読む行動に感心しながら声の主を振り返る。
そこには形南の執事である兜悟朗がいた。どうやら真剣に二人の様子を見ている内に透明の魔法を解除してしまっていたようだ。
驚きはしたが兜悟朗は一定の距離を保ってくれている。紳士的な彼なりの配慮を感じ、嶺歌は直ぐに安堵した。
「申し訳ありません。驚かせてしまいましたね」
「いえこちらこそ……執事さんもここで見守っていたんですね」
「はい。形南お嬢様の一世一代の場で御座いますから。私が見守らない訳にはいかないのです」
彼はそう言って直ぐに形南の方へ視線を戻す。真剣に彼女らを見守る彼のその姿はまるで大事な一人娘を見守っているかのような、そんな感情が読み取れた。
「……形南様の事、本当に大切に思って仕えているのですね」
今の発言は執事である彼に対して失礼だったかもしれない。だがそう思ってしまったのだ。
兜悟朗の形南を思う気持ちは、形状だけのものではない。そう感じた。
しかし兜悟朗は嶺歌の言葉に気分を害する事はなく、いつものような優しげな笑みを見せるとこう言葉を返す。
「左様でございます。形南お嬢様は私になくてはならない大切なお方。お嬢様の幸せを心から願っているのがこの私で御座います」
彼はそう言って心底嬉しげに彼女を見つめた。
その瞳は愛情のような、いや親愛というべきだろうか。慈愛のこもったその瞳の奥底には形南への疑いようのない強い忠誠心を感じられた。
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