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兜悟朗はリムジンではなく、一般的な乗用車に乗って嶺歌の家まで来ていた。どうやらこちらは兜悟朗の私用車のようだ。
それを聞いた嶺歌はただでさえ喜んでいた気持ちに更に嬉しさが増す。兜悟朗の私物の車に乗る機会があるだなんて、なんて夢のような話なのだろう。
「どうぞこちらにお乗り下さい」
兜悟朗は助手席の方のドアを開けると嶺歌をエスコートしてくれた。
いつものリムジンとは違い、手を取られることはなかったが、それでも彼の真隣に座れるのだと考えると胸の高まりが凄い。緊張で胸が張り裂けそうだ。だがそんな事以上にただただ嬉しかった。
嶺歌が車に乗り込むと兜悟朗も素早い動きで車に乗ってくる。
そうして優しい笑みを向けながら「それでは出発致しますね」とこちらに微笑んだ。本当に、夢でも見ているようだ。
「実は本日は、形南お嬢様に休暇をいただいております」
「えっ!? 休暇とったんですか!?」
「はい。お嬢様は快くご承諾して下さいました。ですので本日の僕は完全にオフの状態で御座います。嶺歌さんが可能な限りは時間に制限がありませんのでどうぞお気遣いなくいただければと」
そう言って兜悟朗は再び穏やかに微笑む。
そう言われてようやく兜悟朗の服装がいつもの執事服ではなく私服であることに気が付く。気が付かないほどに嶺歌は兜悟朗からのお誘いに頭を持ってかれていたのだ。
今日の兜悟朗の服装は七分袖の白いトップスに優しいベージュ色のパンツを合わせて足元は歩きやすそうなキャンバスシューズを履きこなしている。どこを見ても格好いいという感想しか思い浮かばない。
嶺歌はそんな兜悟朗が真隣にいるこの状況に改めて心臓の音を高鳴らせていた。
兜悟朗は特に用件を口にする事はなく、他愛もない話を嶺歌に振ってくれていた。
嶺歌も緊張のせいでうまく言葉が思い浮かばず、彼の言葉に無難な相槌を打って会話を続ける。この状況が嶺歌にとってとてつもなく嬉しいという事だけは言うまでもあるまい。
嶺歌は兜悟朗とのドライブに気持ちを高ぶらせながらも真夏のお出かけを楽しんだ。
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