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そうして彼は悲痛な面持ちで言葉を続ける。
「僕は軽視しておりました。一時的であれど高円寺院家に仕える者があれ程愚かな者とは思わず、あのような事態を予想もしておりませんでした。本当に、何とお詫びしたらいいのか分かりません」
嶺歌は兜悟朗のその謝罪を目にして彼に知られてしまったという事実を再認識し、悲しい思いが生まれていた。兜悟朗と形南には知られたくなかったからだ。
きっと兜悟朗にとって子春の存在は可愛い後輩であったに違いない。だというのにそのような者が今回の一件を犯し、挙げ句の果てに敬愛する主人の友人である嶺歌に危害を加えた。
それを知った兜悟朗の心中を思うと嶺歌にはなんと答えたらいいのか分からなかった。
ただ頭を下げ続ける兜悟朗に顔をあげて下さいと強く思いながら、嶺歌は口を開こうとする。だがそこで兜悟朗は再び言の葉を紡ぎ出す。
「……嶺歌さんはお一人で彼女を無力化されたのですね」
兜悟朗はそう言うと深く下げていた頭をようやくそっと上げて、嶺歌を見据える。
「本当に貴女は、お強くて逞しいお方です」
それは彼に何度言われたか分からない褒め言葉だ。だがそれが、どことなくいつもとは雰囲気が異なっており、単に彼が褒めたいだけで発している言葉とは違っていた。
「村国に何と言われようと、たったお一人で彼女を鎮圧したそのお力には本当に感服しております」
兜悟朗が口にする言葉に嘘偽りなどはないのだろう。それを分かっているからこそ、彼の言葉の温度がいつもより遥かに低い事を感じ取る。
そしてそんな嶺歌を前にして兜悟朗は再び言葉を口にしてきた。
「けれど、もし村国が僕に懺悔をしに来なければ、僕はその事に気付く事なく日々を送っていたでしょう」
「嶺歌さん」
兜悟朗はこちらの名を呼ぶと見た事のない顔を嶺歌に向け、口元は珍しくもつぐまれていた。
何かを言いたくて言えないような、そんな様子を見せていた。そのような彼の姿を目にするのは初めてであり、次に放たれる言葉で嶺歌はようやく彼の心中を理解する。
「貴女はそれでも話さず事を終えようとなさったのですか」
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