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第三十九話『相談と恋バナ』
兜悟朗に突如連れられた予測不可能だったドキドキのお出かけは、濃厚なものであったとしかいい表す事ができない。
嶺歌は翌日になってもあの出来事を忘れられず、頻繁に頭に浮かべてはボケーッとその日を過ごしていた。
『年甲斐もなく取り乱してしまい大変申し訳ありません。お見苦しい姿をお見せしてしまいました』
あの後兜悟朗は嶺歌の肩からそっと手を離すと、一歩距離を置いて深く頭を下げながらこちらに謝罪をしてきた。
嶺歌は大丈夫だと焦って言葉を掛けていたが、兜悟朗は独りよがりで自分勝手な事を口にしてしまったと、そう述べて頭を上げなかった。
『僕のこの言葉が貴女様のご負担になっていらしたら、重ね重ねお詫び申し上げます』
しかし嶺歌にとって彼の行動全てが負担に感じる筈などない。それを言葉を選びながらしっかり伝えると、兜悟朗は柔らかい笑顔を見せて、ありがとう御座いますと感謝の言葉を伝えてくれていた。
それ以降は、彼の様子もいつもの完璧で堅実な執事の兜悟朗へと戻り、他愛もない話を繰り返してからゆっくりと嶺歌の家まで送迎されていた。
終始胸のドキドキが治らなかった嶺歌であったが、彼との時間はかけがえない程の喜びを生み出してくれていた。
(兜悟朗さんがあんな風に取り乱すなんて……思わなかった)
彼に心配を掛けてしまった事は心から申し訳なく思う。だがそれ以上に兜悟朗のあの剥き出しになった本音の感情は、嶺歌の心に深く入り込んでいた。
あの言葉を一つ一つ思い出す度に嶺歌の気持ちの高鳴りは尚も継続している。
(あれなには言わないようにって話になったから、この一件をあの子には話せないな……)
そしてふと形南の事を考えた。
兜悟朗とはあの後形南への心の負担を避けるため、子春の一件は伏せるようにと互いに話し合って決めていた。兜悟朗も主人に心配を掛けたくない気持ちは大きかったようで、初めは嶺歌の提案に複雑な表情を見せながらも了承してくれていた。
つまり形南には子春との一件は秘密なのである。
しかし事が事なので、高円寺院家の領主である形南の両親には兜悟朗の方から報告をするとも聞いていた。
形南には内密でお願いしたいと交渉もしてくれるようだ。それなら安心だと嶺歌も兜悟朗の意見を聞いて安堵していた。
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