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『まあまあまあ!!! 兜悟朗ってば!! そのような事があっただなんて聞いていませんでしたの!』
嶺歌から一通りの出来事を耳にした形南は、心底嬉しそうに声を溢し続けると、興奮しすぎたせいか息切れを起こしていた。
相変わらずの彼女のそんな姿勢に嶺歌は自然と笑みが浮かぶ。
そして笑いながら落ち着いてと声を出すと形南は『ふふっそうですわね』と口にしてからもう一度嶺歌に声を向ける。
『けれど……そのようなお話、兜悟朗にはこれまで一度も起こらなかった事態ですの。そもそも兜悟朗が休暇をとった事も、実家に帰る時以外は一度もなかったのですのよ』
それを聞いて嶺歌は驚く。確かに彼の言い方からしてこれまで取得してきた休暇は少ないのだろうと思っていたが、本当にそうだったのだと、形南の言葉を耳に入れて実感していた。
そしてその事実にとてつもなく喜んでいる自分がいる。
『兜悟朗は嶺歌に会いたくて私に休暇を申し出ていたのだと思うと、今後もたくさん取得して貰いたいですの! ボーナスですの!』
明確に言えば、子春の一件で珍しく取り乱した兜悟朗が嶺歌に自分にも頼ってほしいのだと伝える為に休暇を取っていた、という認識なのだが、それを知らない形南は単純に嶺歌と遊ぶために兜悟朗が休みを取っていると思っている。
その微妙な違いを訂正したくはあるが、子春の事は内密にする約束だ。嶺歌は形南にありがとうとお礼を述べるだけにしてその気持ちを飲み込んだ。
(だけど本当……嬉しかったな)
どのような理由であれ、兜悟朗が嶺歌に会いに来てくれた事がまず嬉しかった。私服の彼とデートのようなドライブをできたことも。
そして何より――――彼に、自分を失う事が怖いと、そう言ってもらえた事がとてつもなく嬉しくて、嶺歌にとってそれ以上に喜ばしいことはなかったのだ。
第四十話『思い出してときめく』終
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