第四十一話『海』

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「これでいいか」  嶺歌(れか)は日焼け止めを塗り終えながら自身の持ち物を再度確認する。  今日の服装は涼しい素材のトップスにウエストリボンでしめる短パンスタイルだ。靴も海ということでサンダルである。  水着は衣服の中に既に着用しているものの肝心の下着を忘れていないかの確認も兼ねて、他にも海に欠かせない必需品を事細かくチェックしていた。  海に出向くということで荷物もそれなりにある事から今回は形南(あれな)の強い提案で車での移動になっている。  しかし今回はリムジンではなく乗用車を使用するらしい。  これは形南の平尾への配慮なのであろうと予測できた。平尾は目立つのが嫌いな人間なため、形南も彼の気持ちを優先したかったのだろう。  形南と平尾を見ていると本当に互いを思い合っている事がよく分かる。もどかしすぎるこの状況も、しかしこの両片思いの二人がどのようにしたら交際までに至れるのか、そう遠くない未来に知る事ができるのかもしれない。  そんな事を考えていると約束の迎えの時間がやってきて、嶺歌は急いで玄関先に向かう。  すると珍しく早起きの嶺璃が「れかちゃん行ってらっしゃ〜い」と眠そうな目をこすりながら見送りをしてくれていた。嶺歌は可愛い妹の頭を撫でながら行ってくるねと笑みを向け自宅を出る。  そして鍵を閉めると、足を進めてエントランスの方まで向かう。  嶺歌の足は自然と浮き足立ち、思わずスキップを踏みそうになる程軽やかで楽しさが溢れ出ていた。
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