第四十二話『自覚するのは』

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 嶺歌(れか)が戻ると形南(あれな)と平尾が浮き輪で浮かびながら海の中で談笑しており、二人共いい雰囲気になってきている様子が目に入る。  嶺歌が離脱する前は、目の前に広がる綺麗で美しい海に気持ちが向かっていた様子の二人だったが、今は間違いなくお互いだけを意識している、そんな雰囲気だった。  嶺歌はこれは戻らない方がいいのではないかと思い改め、やはり兜悟朗(とうごろう)の元へ戻ろうかと思考を変える。 (あれなと平尾がいい雰囲気だからって言ったら別に変に思われないよね)  事実、二人の雰囲気を邪魔したくないから故のこの判断であるため、嶺歌はそう考え直すと踵を返して兜悟朗の方へ再び戻り始めた。  しかしそこで遠目ではあるが、兜悟朗を視界にとらえた嶺歌は想像しなかった事態に目を見開いた。  兜悟朗は三人組の女性に声を掛けられている様子だった。  成人しているであろう大人の、それも全員ビキニを着用し、スラッと細長い足を見事に披露している女性から兜悟朗に話しかける理由はどう考えても一つしか思い浮かばない。 (逆ナンされてる…)  一気に焦りを感じる自分自身に気が付いた。  兜悟朗がもしあの三人の中から好みの女性を見つけ出し、その人と恋仲にまで発展したらどうしようとまだ起こってもいない未来を予想して一人で勝手に不安になっている始末だ。  こんな思考ではダメだと言い聞かせてはいても、視線の先で兜悟朗が女性らに笑みを向けながら会話をしている様子は嶺歌にとって苦痛だった。  彼は自分たちの同行者であるのに、何故赤の他人が兜悟朗と楽しげに話しているのだと怒りすら湧いてくる。  これが嫉妬心というものであると理解した嶺歌は、己の醜さに直面しながらもただ兜悟朗達の様子を離れたところから見ている事しかできずにいた。 (どうしよう、あたし……あの人が他の人と一緒なの嫌だ)
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