第四十二話『自覚するのは』

6/6
前へ
/520ページ
次へ
 すると嶺歌(れか)の意図を察してくれたのか兜悟朗(とうごろう)は微笑みながらこちらにそんな言葉を投げてくる。  嶺歌はその言葉に安心して、早口になりかけていた口を一度閉ざした。 「嶺歌さんがお二人との仲を深められている事柄も、僕には嬉しい事なのです。ですから今後もどうぞ宜しくお願い致します」  そう言って小さな会釈をしてくる。嶺歌もその姿を見て咄嗟に声を出していた。 「勿論です! あたしも二人と仲良くできる事は嬉しいので」  嶺歌がそう返すと兜悟朗は口角を上げたままこちらを見据える。優しい笑みだ。それを自分に向けてくれている事が嬉しい。 「有難う御座います。是非、僕とも今後の関係を続けていただければと思います」 「も、ちろんです」  途端に嶺歌の言葉はつっかえていた。兜悟朗のこの予測不可能なとんでも発言に嶺歌は何度も動揺してしまう。  兜悟朗が嶺歌をそのような目で見てはいなくとも、彼にとって普通以上の、そんな存在にはなれているのかもしれない。これは自惚ではなく、兜悟朗の態度全てから感じ取れていた。  少なからずそれが、兜悟朗の一言一句に何度でも心が踊らされてしまう要因ともなっている。  彼の言葉に酔いしれるように、嶺歌は頭を俯かせるとペットボトルを手に取ってから特に意味もなくキャップを開け閉めするのであった。 第四十二話『自覚するのは』終                 next→第四十三話
/520ページ

最初のコメントを投稿しよう!

27人が本棚に入れています
本棚に追加