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「あれちゃん、気分良くなった?」
平尾に連れられ当てもなく海辺を散歩していた。
海のエリアでは溺れかけた嶺歌の噂で人がまだらに集まっており、現在一時的に海への出入りを禁止されていた。
形南はそんな様子を横目で見ながら平尾に声を返す。
「先程よりは冷静になれましたの。平尾様、お気を遣わせて申し訳ありません」
平尾が形南の為を思って行動に出てくれていた事は気付いていた。それを嬉しいとも思っていた。
だがそれ以上に、嶺歌への心配が何よりも大きかったのだ。
今でこそ冷静さを取り戻していたものの、先程までの自分は嶺歌の事しか頭になかった。平尾は客観的にそれを感知し、形南をずっと支えようとしてくれていたのだ。
「平尾様、有難うございます」
形南は薄く微笑み、彼にお礼を告げると平尾は顔を赤くさせながら「ぜ、全然……そろそろ様子見に戻る?」と言葉にする。
彼のその提案は今の形南にとって嬉しく、そのまま深く頷くと医務室の方へと足を動かしていった。
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