第四十五話『御礼』

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第四十五話『御礼』

 その後、何の後遺症もなく動けるようになった嶺歌(れか)は医務室を後にしていた。  そしてあれからずっと付き添っていてくれていた兜悟朗(とうごろう)と共にお世話になった管理人に挨拶を終えてから形南(あれな)たちと合流しそのまま帰宅した。 「あんた本当、良かったわねえ」  未だに夢のように思えていた兜悟朗との一件を何度も思い返しながら自宅のソファでボーッとしていると、唐突に母にそう言われる。  嶺歌は「え?」と声を返すと「え? じゃないわよ。命、大切にしなさいよ」と母に注意される。  嶺歌も望んで溺れたわけではないのだが、母の言う通り確かにもっと気をつけるべきだと学んでいた。  海に入る前にストレッチをしておくべきだったとそう思いながら嶺歌はつい先程まで側にいた兜悟朗の事を再び頭に浮かべる。  兜悟朗はあの後嶺歌を自宅まで送った際に両親と対面し、今回起こった事態を丁寧に説明してくれていた。  元気に回復をしたとは言っても、やはり大変な目にあった以上は今回の事を身内に報告するべきだと兜悟朗に強く言われ、その言葉に嶺歌も納得したのだ。  本当にもう問題がないのか明日また優秀な医者を呼んでくるとも言われている。これには形南からの声も入っていた。 (兜悟朗さん、かっこよかったなあ)  今日は色んな姿の兜悟朗を見られた気がする。溺れた事は怖かったが、正直、それ以上に兜悟朗との様々な出来事が今の嶺歌の心中を支配していた。  嶺歌はそのままソファで目を閉じると兜悟朗の逞しい筋肉を思い浮かべる。彼の腕は逞しく筋肉で盛り上がり、腹筋も割れていた。  兜悟朗はこれまでずっと肌を見せてこなかったため彼に筋肉があるのかすら謎であったが、今回の彼のあの姿を目にしてからそれは解明され、それがどうにも頭から離れない。何をしていても兜悟朗との出来事と共に彼の肉体を思い出している自分がいた。 (かっこいいとしか思えない……どうしよ)  嶺歌はそんなことを思いながら疲れがドッと出て、そのまま眠りにつく。  今回は形南や平尾にも心配をかけてしまった。今度二人にも何かお詫びをしよう。最後にそう考えながら嶺歌は夢の中へ入っていった。
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