27人が本棚に入れています
本棚に追加
夏休みも終わり、今日は始業式だ。
長期休暇は楽しかったが、学校も好きな嶺歌は久しぶりに会える友人たちと楽しく談笑しながら新学期を送る。
「い、和泉さん」
すると休み時間に平尾が教室までやってきた。昨日の今日だ。平尾は心配しているような様子で嶺歌に話し掛けてくる。
「も、もう平気なの? あれちゃんずっと心配してたからさ……」
「平気平気。昨日はありがとね。それに今日の放課後、医者を紹介してくれるみたいだから心配いらないよ」
嶺歌はそう言って平尾ににかっと笑みを向ける。
この夏休みの間で平尾に対する認識は変わってきている。昨日の形南を思いやる態度はもちろん、彼は弱々しい面を持ちながらも芯を持った強い男であるのだとそう感じるようになっていたからだ。
「そ、それなら……俺が言う事じゃないけど、あれちゃんにこまめにれ、連絡してあげてほしい……」
嶺歌の心配もしてくれつつ、しっかりと形南への気遣いを疎かにしないそんな彼に嶺歌は口元が緩んだ。
勿論任せてと言葉を返すとちょうど休み時間を終える合図の予鈴が鳴った。
平尾はじゃあまたと言って隣のクラスに戻っていく。途中平尾を不思議そうに見てくるクラスメイトが数人いたが、平尾はその目を避けるようにそそくさと教室を出て行く。
クラス内でそれなりに顔が広い方だと自負している嶺歌は、平尾が自分に会いにくればそれなりの注目を浴びるであろう事は理解しており、それを平尾も知っているはずだ。
だが目立つのが嫌いな彼がこのように嶺歌のクラスにわざわざ顔を出してまで会いに来たというのは何だか新鮮だった。形南の事を本当に大事に想っているのが伝わる。
(二人、進展しないかなあ)
そんな事を思いながら授業を受けた。
最初のコメントを投稿しよう!