第四十五話『御礼』

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 医者から問題ないだろうと診断を受けた嶺歌(れか)は、しかし念の為また数日後に検査を受けるようにと言われ、その日の診断は終わりとなっていた。  後遺症が残らなかったのは本当に幸いだ。兜悟朗(とうごろう)が素早く助けてくれたおかげで今の嶺歌がいる。  そう思うと、大好きな人が命の恩人でもある事に感慨深いものを感じていた。 「嶺歌さん、何も支障がないようで安心致しました」  診察の間もずっと側についてくれていた兜悟朗はそう言って柔らかな笑みを向けてくる。彼が本気で安心してくれているのだとそう感じて嶺歌は再び胸の奥が熱くなった。 「本当に兜悟朗さんのおかげです。何かお礼をさせて下さい」  嶺歌は昨日言いそびれてしまっていた話題を口にする。  嶺歌の両親も命の恩人である兜悟朗に何かお礼をしようと色々考えてくれているのだが、それとはまた別に嶺歌自身からも兜悟朗にお礼をしたかった。  すると兜悟朗は優しくこちらを見返しながらこう口を開く。 「お気遣いいただき有難う御座います。それでしたらおひとつ、お願いをしても宜しいでしょうか」 「勿論です! どんな事ですか?」  嶺歌はすぐにそう答えてみせると兜悟朗は嶺歌の瞳にしっかりと自身の瞳を合わせてくる。  その視線に嶺歌の鼓動は一気に速まるのだが、彼が何を言おうとしているのか聞き逃さないようにと頭を集中させた。 「形南(あれな)お嬢様とのお約束がなくとも、僕が個人的に嶺歌さんにお会いする事をお許しいただけないでしょうか」
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