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兜悟朗との庭園散策は終始とても優しくて温かな時間だった。彼は常に嶺歌の手を取り、エスコートをしてくれていた。
そんな嶺歌も兜悟朗から差し出された手に自分の手をそっと委ねて長い時間、そうして歩いていた。
通常の手繋ぎとはまた違い、社交ダンスをするかのような手の繋ぎ方はいつもリムジンに乗り降りする際に兜悟朗がしてくれているものと同じであったが、このように長い時間を繋いでいるという行為はとても貴重な経験であった。
綺麗に整備された花園が見え、そこでおもてなしもされた。
花園の中には美しい庭園ならではのガーデニングテーブルと椅子が二人分用意されており、形南の専属メイドであるエリンナが紅茶とクッキーをそのテーブルの上に用意してくれていた。それを兜悟朗と二人で席に座り、美味しく味わった。
いつもは形南と嶺歌が席について食べる様子を遠くから彼が見守ってくれているのだが、今回はそうではなく他でもない兜悟朗が嶺歌の真向かいの席に座って一緒に食事をしてくれている。
これまでになかった事が目の前に起こっている状況がまた嬉しかった。
嶺歌と兜悟朗は他愛もない会話をして、一度も会話が途切れることはなかった。兜悟朗といると落ち着くせいだろうか、何故か会話の疲れは一切感じられなかったのだ。
第四十五話『御礼』終
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