第四十六話『一喝』

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「な、なんか、呼び方が逆効果だったぽい」  平尾はそう言って顔を青ざめさせながら困り果てたように口にする。  これまで平尾を君付けしていた嶺歌(れか)が唐突に呼び捨てに変えた事が決定打となっていたようだ。  更に普段は異性を呼び捨てでしか呼称しない嶺歌が、平尾にだけは君付けをしており、それをまた急に変えたからというのも勘違いの原因の一つに含まれているらしい。  それを本気で交際に発展した証拠だと思ったのかは分からないが、それらが大きな要因として噂の元になっているのは間違いないようだった。 「ほんと暇人だよね」  嶺歌は深くため息を吐いた。  互いがそのような対象でない事は嶺歌と平尾自身がよく分かっている。それぞれ意中の相手がいるというのにこのような噂はただの害にしかならない。  嶺歌は額に手を当てながら平尾に言葉を発した。 「否定すればするほど多分悪化すると思う。耳障りだけど噂が収まるのを待つしかないよ」  嶺歌が思いつく最善の方法を平尾に伝えると彼は「だ、だよね……」と心底残念そうに声の調子を落とした。 「あれなにはあたしが言っとくよ」  最近はそのような話を聞いていないが、用心深い形南(あれな)の事だからまた平尾を狙うライバルが現れないかをチェックしている可能性はあった。  そこで今回の噂を知ってしまうよりも嶺歌の口から伝えておいた方が無難であろう。そう思って口にした。しかし平尾は形南の名を耳にした途端に表情が変わる。 「そ、れは……あれちゃんに和泉さんと噂になってる事がバレちゃうの?」 「バレちゃうっていうか言っておいた方が無難だと思うけど。変に隠してたら余計怪しくない?」  嶺歌がそう言うと平尾は唇を噛んでから拳をギュッと握り、何を思ったのか裏庭を出て行こうとする。そして嶺歌にもう一度言葉を向けた。 「悪いけど、あれちゃんに言わないで。俺、誤解とか嫌だ」
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