第四十六話『一喝』

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「ええ? そりゃあたしも嫌だけど」 「知ってる。だから行動してくる。和泉(いずみ)さんは何もしないで待ってて」  平尾はやけに強めにそう告げると迅速な足で裏庭を出ていく。  嶺歌(れか)はどうなっているのか分からずしばしその場で立っていたが、数分が経過してようやく平尾の違和感に気が付いた。 (あいつ……どもってなかった)  いつもは口を詰まらせていた平尾が、全く言葉をつまらせずしっかりとした口調で言葉を放っていた。  普段と違う彼の様子に嶺歌は驚きながらも平尾が何を思って行動しようと目論んでいるのかを思考してみる。  だが何も分からず、仕方がないから教室に戻ろうと考えた嶺歌は、自身のクラスまで戻ってきたところである事を感知する。何やら隣の一組が騒がしい。  嶺歌は平尾の事もあり、気になって一組の教室を覗き込んでみる事にした。  するとそこでは予想外の光景が繰り広げられていた。 「和泉さんはただの友達で恋人じゃない。俺が好きなのは別の学校の凄く可愛らしい女の子だから」  なんと平尾は自身の教室の教卓に堂々とした姿で立ち、スピーカーを手に取ってそのような発言をかましていたのだ。  オドオドした弱々しい印象の彼からは予想もできないその行動力に嶺歌は思わず見入ってしまう。 (平尾……やるじゃん)  そして同時に彼に敬意を示していた。  いつも目立ちたくはないと日陰で生きる口ごもりの男は、好きな女の子ただ一人の為だけにこのように大胆なことをしてのけるのだと、嶺歌は平尾のその姿を見て強く思った。 「嘘つけー!!」 「和泉と付き合ってるって認めろよ! あいつ狙ってる奴多いんだからな! 全員敵だぞ!」 「本当は嶺歌ちゃんが好きなのにバレたくないからって嘘いうなよ」  しかし嶺歌のそんな感激とは裏腹に一組の生徒共はそう言って平尾にヤジを飛ばしまくっている。  だがそれでも平尾は怯む様子を見せずに再び声を上げた。
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