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嶺歌の暮らす地元にも映画館はいくつかある。
だが今回三十分かけても到着しないという事は少し離れたところに連れて行こうとしてくれているのだろう。
嶺歌がそう口に出すと彼はその言葉を肯定する。
「こちらの作品の4DXが近場ではそちらしかないようでしたので、少しお時間を取らせていただきました」
兜悟朗は当然のようにしれっとそんな言葉を口にする。嶺歌は驚いて思わず彼を見た。そこまで彼は気を遣ってくれたのか。
「あたし普通に2Dしか頭にありませんでした……そこまで考えてくれてたんですか」
これも形南と何気ない映画の話をしていた時の事だ。
4DXで映画を見たらどんな感じなのか気になるが、まだそこまで見たいと思う作品に出会えていないと形南に以前話した事があった。あれは夏休みに入る前の話だ。
その時嶺歌達は食事をしながら話をしていたので、その場で食事の用意をしていた兜悟朗も聞いていたのだろう。そしてそれを兜悟朗は覚えてくれていたのだ。
「はい。嶺歌さんが今回の映画を4DXでご所望かどうかまでは推測できませんでしたが、今回の作品で御体験いただければと」
気遣いが凄すぎる。お金のかかる4DXを選出してくれた事に喜んでいる訳ではない。
ただ彼が嶺歌が以前言っていたことを聞いて覚えてくれていたというその事実が嬉しかった。
兜悟朗の万能さを改めて感じていると車はとある建造物の立体駐車場に入っていき、目的地に到着した事が分かる。
兜悟朗と初めての映画館に行く事と初めての4DX体験というドキドキの初体験が二つ重なり、嶺歌の心はまるで幼い子どものようにワクワクとした高揚感で満たされていた。
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