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建物の中に入り、飲食物を購入してから映画館の館内に足を踏み入れると兜悟朗にエスコートされ、指定の席へと座る。
真隣に彼が座るというこの状況に、先程の車内でも緊張はしていたが、更に気持ちは緊張感で胸が高鳴っていた。
(デートみたい……)
いや、これはもはやデートと呼んでもいいのではないだろうか。
そう思うものの兜悟朗からすれば迷惑な話かもしれない。しかしそこで嶺歌は最近考えていたある考えを頭に映し出す。
(兜悟朗さんて……あたしの事、好き?)
間違いなく好意的に見てくれているのは確かだ。
それが異性としてなのか、主人の大切な友人に向ける親愛的な意味合いなのかは分からない。
だが彼に向けられるそれが形南とはまた別の感情であろう事は理解していた。根拠としては彼が以前そう口にしていたからだ。
嶺歌が海で溺れたあの日、兜悟朗が口にしていたとある言葉を思い出す。
―――――『形南お嬢様には感じなかったこの気持ちが、僕には……特別以外に言葉が出てこないのです』
あの台詞の真意が何度考えても分からなかった。
嶺歌を以前よりも慈愛の籠った目線で見てくれる事が増えているのは知っていた。嬉しくて仕方がないのも確かだ。
しかし兜悟朗が恋愛的な思いから、嶺歌を見ているのかどうかは本当に未知の領域なのである。
(兜悟朗さんは好きって感情を知らないんだよね)
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