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その話に嶺歌は心底驚いた。
海で溺れた嶺歌を兜悟朗が助けてくれたという一件で、家族が何かお礼を考えている事は知っていたが、まさかそれが夕食への招待だとは思いもしなかった。いや、嶺歌としてはかなり嬉しい事なのだが、本当にそれをお礼にするのだろうか。
「それ決定してるの? 候補とかじゃない?」
嶺歌がそう嶺璃に尋ねると、妹はううんと首を左右に振って嶺歌の言葉を否定してくる。
「昨日眠れなくて、リビングいこうとしたらずっと話し合ってて、結論出してたよ。嶺璃最後まで盗み聞きしてたから」
「…………」
妹の盗み聞きという単語に思うところはあったが今はそれどころではない。
兜悟朗を夕飯に招待するのは決定事項のようだ。恐らく今日母から話を聞かされるのだろう。
嶺歌は様々な思いを浮かび上がらせながらも、頭の中で兜悟朗が嶺歌の家の食卓についている姿を想像していた。
(うわ……めちゃいい…………)
重症だと思いながらも喜んでいる自分がいる。
嶺歌は妹の頭を撫でながら教えてくれてありがとと声を発すると、彼女は嬉しそうにうん! と言いながら軽やかな足取りで部屋を出ていく。
そんな妹の背中を見つめながら嶺歌はまるで奇跡のように自宅に招かれる兜悟朗の事を何度も頭の中で考え、想定通り朝食時に母からその話を切り出されると心の中で激しくガッツポーズをするのであった。
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