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「和泉さんお、おはよ」
偶然にも下駄箱前で会った平尾は口ごもらせながらもいつもより親しみがあるように感じられた。
嶺歌はおはよと声を返すと今日形南と会う事を早速報告する。意識していなかったのだが、そのまま平尾と一緒に教室まで向かう形になっていた。
「そ、そうなんだ。俺も実は明日会う予定でさ……」
「そうなの? あれなが二日連続で空いてるなんて珍しいね」
廊下で様々な生徒とすれ違うが、嶺歌と平尾の姿を見ても変に揶揄ってくる者はもういなくなっていた。あの一件が全員の印象に強く残ったからだろう。
そのまま形南の話をして足を進めていると、平尾は頬を掻きながら何やらもじもじとし始め、嶺歌にこんな事を尋ねてきた。
「と、兜悟朗さんとはどう?」
「えっ」
平尾から聞かれるとは何だか不思議な気分だ。
嶺歌が驚いた目をして彼を見ていると平尾は顔を俯かせながら「き、近況を報告するって約束はしてないけど……互いの恋に発展があったら話すのかなって思ってたから……い、和泉さんもそのつもりだったよね?」と謎の確認をしてくる。
確かに嶺歌もそれは感じていたのだが、直接的に確認をしてくる平尾に面白おかしい感情を抱きながら嶺歌は口を開いた。
「ああ、まあ確かに…でも平尾の方から気にしてくるとは思わなかった。あんた、自分の事でかなり手一杯そうだったし」
「ええ? そ、それは否めないけど…」
「否めないんかい! あははっ」
「しょ、しょうがないじゃん…」
そんなやり取りをしている間に自分たちの教室まで到着する。
平尾は困惑の色を見せてはいたものの不快そうな表情はしていなかった。
嶺歌はそんな彼の姿を見て、平尾とはいつの間にか軽口を叩き合える関係になっているような気がしてきていた。
そしてそんな嶺歌の平尾に対する認識は『形南の好きな人』という括りから抜け出し、一人の友達として認識するようになっている事にも気が付く。
「じゃ、またね」
嶺歌は自分の中の考えに納得すると、平尾に笑みを向けながら自分の教室へと入っていく。
平尾も「う、うんまた」と声を返してそのまま互いの教室へと入っていった。
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