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放課後になると嶺歌は形南からレインが来ている事を確認し、急ぎ足で廊下に飛び出す。知り合いから声を掛けられ言葉を返しながらも形南の待つ校門へと足を動かした。
形南の学校は嶺歌の学校よりも一時間早く授業が終わる。
形南の通うお嬢様学校は、皆それぞれ稽古が控えているご令嬢ばかりが通っているため学校側がそれを考慮してそのような形式になっているようだ。
そのため形南との放課後の約束事に嶺歌が形南の到着を待った事は一度もなかった。
(あれないた)
急いで靴を履き替え、昇降口に出るとそこで校門の先に黒いリムジンと形南と兜悟朗の姿が見え始める。
相変わらず大きなリムジンは目立つせいか多くの生徒達に視線を向けられ、しかしこの光景はもう何度も目にしているものだった。
「あれなお待たせ!」
嶺歌が駆け足で形南の方へ向かうと彼女も嬉しそうに微笑んで嶺歌の名を呼んでくる。そうして再び体の調子を尋ねてきた。
また近い内に医師への診断を控えているのだが、嶺歌の体は本当に問題がない。
その事を正直に話すと形南は喜ばしそうに口元を緩めてホッとした様子を見せてくる。
そんな形南を見て彼女は変わらないと、嬉しい気持ちになっていると聞き慣れた柔らかな声が嶺歌の耳に響いてきた。
「嶺歌さん、お疲れ様で御座います。どうぞお乗り下さい」
そうして兜悟朗の声で嶺歌は彼を見た。
もう何度気持ちを動かされるのだろうと思ってしまう程、兜悟朗の声だけで一気に心臓が飛び出そうになる。
それほど嬉しいという事なのだが、嶺歌は顔を僅かに赤く染めながらありがとうございますと言葉を口にして彼のエスコートを受けるのであった。
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