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しばらくして形南が落ち着いた様子を見せる。
嶺歌は形南が何かを発するまでその場で静かに彼女の隣で背中をさすっていた。
形南はもう通常のように話せるのか「嶺歌、もう大丈夫ですの」と声を発する。
その言葉で嶺歌も向かいの席に戻り腰を下ろす事にした。
そうしてから形南は対面する嶺歌の手を握ってこちらをまだ腫れた目のまま見つめて再び口を開き始める。
「本当に有難う御座いますの。醜い私の心を受け入れて下さって……何て心が広いのでしょう。本当にごめんなさい」
形南はそう言うと再び泣きそうな顔を見せていた。
嶺歌は笑みを返しながら何言ってんのと言い、形南の再び浮かび上がった一滴の涙をハンカチで拭ってやる。
「全然平気だって。あたしも悪いんだし、もう謝るのはなしにしよ」
嶺歌はそう笑って声を発すると形南も口元を僅かに緩めて小さく頷く。そうして形南は再度口を開いた。
「ですが嶺歌、平尾様とはこれまで通りの関係を続けて下さいな」
「え?」
「本当にそうして欲しいのですのよ。ヤキモチ…というものが私の中にある事は確かに認めます。けれどそれが他者の交流を妨げてはなりません。他でもない、大好きな嶺歌に気を遣わせたくはないの」
形南はそうしっかりとした目つきで嶺歌に言葉を放つ。
その様子は先程まで泣いていたか弱い女の子の形南ではなく、嶺歌がいつも感じていた高円寺院形南の逞しくも貫禄のある姿だった。
嶺歌は思わずそんな形南に見入り、一拍置いてから大きく頷き、分かったと答える。
「じゃああたしも変な遠慮せずにこれまで通りであいつと付き合うよ。でも嫌な時は我慢しないで言ってね。約束」
嶺歌がそう口にすると形南も嬉しそうに笑みを溢してはい! と声を返す。
今回の形南との出来事は、彼女との友情を深める大きな出来事の一つになったようなそんな気がしていた。
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