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平尾がよく訪れるという河川敷に到着し、形南は人の少ない大きな河原に目を向ける。
自分が一人になりたくて兜悟朗に連れて行ってもらう場所とはまた違った美しさがあり、なんだかこの景色を眺めていると物思いに耽りたくなる。そんな温かい場所だった。
「気持ちいいですのね」
形南は風で舞う髪の毛を抑えながら目の前に広がる綺麗な景色に目を凝らす。
とても気持ちの良いその風は、まだ暑いこの時期にちょうどよく、形南の気持ちを一層高まらせていた。
「き、気に入ってくれて良かった」
平尾はそう言うと芝生の上に座り込んだ。
形南も続けて座ろうと思うが途端に「ちょっと待って」と平尾に制され、形南が頭に疑問符を浮かべていると彼は自身の鞄の中から小さなレジャーシートを取り出す。
「これ……服が汚れないと思うから」
「まあ……」
形南は平尾の優しい気遣いに胸を打たれる。本当に、この人は心が温かく優しい人だ。
形南は胸が熱くなりながらも彼にお礼を告げてそのまま用意されたレジャーシートに腰を下ろした。そして思っていたよりも密接した距離の近さにドキドキした。
「平尾様」
形南は平尾に聞きたい事があった。
それは昨日嶺歌にあの言葉を放ってからどうしても聞かずにはいられないと自身の中で決めていた事だ。
(平尾様が私を好いて下さっている事は分かっていますの。けれど……)
「嶺歌の事、慕っておりますの?」
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