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「ええっ!?」
このように尋ねてはいても、平尾が嶺歌を異性として好いているという考えは持っていない。
彼と過ごした数々の時間の中で、平尾が形南を一人の女として見てくれているという事が存分に伝わってきているからだ。
しかし同時に平尾と嶺歌の仲が以前より友好的になっている事実にも形南は気付いていた。
平尾と嶺歌が仲良くなる事を、形南本人が心から望んでいる事は今でも変わらない。
だが平尾が嶺歌の事を異性として見ていないのだと彼の口から直接聞いた事は一度もなかった。
勿論、シャイな彼が何のきっかけもなしにそのような事をわざわざ口にする筈もないのだが、形南としては平尾の口からはっきりと嶺歌をどう思っているのか聞いておきたかった。
嶺歌への嫉妬は昨日の一件から綺麗に拭い取られている。そしてこの醜い自分の感情を彼女は肯定してくれていた。
そんな嶺歌に対しては友愛だけでなく揺るぐ事のない絶大的な信頼を持っている事に嘘偽りはない。ゆえにこれは嶺歌ではなく、平尾と形南二人の問題なのだ。
だから次は平尾に確かめたい。彼の答えは聞かずとも明白だ。だと言うのに聞いておきたいのだ。それがあまりにも自分勝手な事は分かっている。
だがそれでも形南は――どうしても想い人の本音を聞きたかった。
それが聞けた時、初めて形南は平尾に愛の告白が出来るのだと、自身の心の中で強く決めていたからだ。
「平尾様は以前、嶺歌とそのような噂が出たのだと、お聞きしましたの。御免なさい、お調べさせて頂きましたの」
形南は目を見開き言葉を失っている様子の平尾に尚言葉を続けた。
「それに、嶺歌が平尾様への呼び方を変えてらしたのも気になりますの」
噂になった件について、嶺歌から話を聞いてはいない。
だが形南は以前から平尾の女性関係に関する情報を数人の従者を使って定期的に調べさせている。そのため今回の噂においても形南は兜悟朗から直接報告を受けており、その事態を耳にしていたのだ。
形南は平尾と嶺歌が交際しているのではないかという噂が校内に広がり、その噂が一日余りで収まっていたというところまで聞いていた。
噂が収まった詳細までは分かっていなかったが、ひとまず彼らの関係が否定されている点に安心感は得られていた。きっと嶺歌の事だから、彼女が全力で否定してくれたのかもしれない。
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